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東京地方裁判所 昭和35年(ワ)1806号 判決

原告 景山正

右訴訟代理人弁護士 久保久治

被告 新武州産業KK

右代表者代表取締役 金子仁三郎

右訴訟代理人弁護士 池内省三

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

原告が昭和三十四年三月二十四日訴外武州産業株式会社に対し、代金は納品後四ヶ月後払の約旨の下に、原告主張の自動車部品を主張の単価、代金額で売渡し総計二十五万四千円の売掛代金債権を有すること、その後の同年七月二十四日右訴外会社はその商号を株式会社ビー・エス・ケーと変更したことは、成立に争いのない甲第一号証、同第三ないし第五号証、原告本人景山正に対する尋問の結果、を綜合する事により認められる。又被告が昭和三十五年一月八日設立せられた株式会社であることは当事者間に争いのないところである。右被告会社が同月中原告に対し、訴外ビー・エス・ケーの原告に対する右買掛代金債務を免責的に引受ける旨を約したとの点についてはこれを認めるに足りる証拠がない。(成立に争いのない甲第六号証の一、二、によつてもこれを認めるに足りない。即ち「業務を引継いで……開業する」ということは、当然には営業の譲受けないしは債務の引受を意味するものではなく、要は訴外会社と被告会社との間の契約内容によつて定まるものと解すべきであるから。)つぎに、被告会社が訴外ビー・エス・ケーとその役員を殆ど同じくし而も後者の店舗、工場、電話等を使用し且つ右訴外会社の債権者の一人である原告に対し昭和三十五年一月中「被告会社を訴外ビー・エス・ケーの第二会社として設立し右訴外会社の義務を引継いで開業することになつた」旨の書簡を送付していることは、成立に争いのない甲第一、二号証、同第六、第七号証の各一、二、乙第一号証、原告本人景山正に対する尋問の結果、を綜合することによつて認められるが、かかる場合、被告のような立場にある会訴社が訴外ビー・エス・ケーのような立場にある会社の営業を譲受け従つてその債権債務をも承継したものとなす商慣習があるとの点については何等の証拠がないのみならず経験則からもそのようには即断ができ難い。即ち、「業務を引継いで開業する」ということは、或いは営業の全部を譲受けたことによる場合もあり或いはその一部を個別に譲受けたことによる場合もあり或は営業又は店舗、工場設備等を賃借したことによる場合もその他の場合もあるのであつてその意味は必ずしも明確ではないのみならず必ずしもこれに伴い債務は当然に承継せられるものとも言い得ないからである。従つてこの点に関する原告の主張もこれを容れるに由なく、結局原告の本訴請求は失当であるから容認し難いものとしてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤恒雄)

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